この記事でわかること
国連の予測によれば、2050年までの世界人口増加の3分の2は都市部で生じるとされており、その増加を受け止めるために必要な事業用不動産の多くは、いまだ建設されていません。建築環境が二酸化炭素排出の主要な発生源であることを踏まえると、不動産デベロッパーが下す設計や建設資材の選択は、ますます重要性を増しています。数ある選択肢の中でも、いま最も注目を集めているのがマスティンバー工法です。
マスティンバーは、他の工法と比べてより持続可能な選択肢であるだけでなく、テナントや居住者に対して健康やウェルビーイング、その他さまざまなバイオフィリックな効果をもたらします。さらに、マスティンバーによる開発プロジェクトは、従来の建設資材を用いる場合と比べて、より少ない作業員数、交通への影響の軽減、そして現場全体の静粛性を保ちながらも、多くの場合、より短い工期で完成させることができます。マスティンバーの利点は、数多くかつ多面的です。
マスティンバーとは?
マスティンバー(Mass Timber)とは、エンジニアードウッドでできた柱、梁、パネルを用いることを特徴とする構造形式の総称です。ここでいう「エンジニアード」とは、これらの建築部材があらかじめ専門工場で製造され、その後、組み立てのために建設現場へ運ばれることを意味します。この製造工程では、一枚一枚の木材を積層・接着することで、より大きく、より強く、精密な寸法に仕上げた部材へと加工するさまざまな技術が用いられ、鋼材やコンクリートに匹敵するほどの構造荷重を支えられるようになります。柱や梁には、木材を積層接着した集成材(グルーラム)が多く用いられます。パネルにはCLT(直交集成板)が使われることが多く、床や屋根など水平方向の用途にもっとも頻繁に使われる一方、壁など垂直方向に用いられることもあります。
日本におけるマスティンバー建築
日本におけるマスティンバー建築の代表例のひとつが、横浜にある11階建てのオフィスビル、ポートプラスです。2022年の竣工時点で高さ44メートルに達し、日本国内で最も高いマスティンバー建築となりました。さらに身近な例を挙げると、2024年に完成した札幌のエア・ウォーターの森があります。これは、マスティンバーと鉄骨造を組み合わせた地上4階建ての複合用途ビルです。この建物では、マスティンバーが耐震ブレースの役割を担っているだけでなく、使用された木材の産地そのものにも注目が集まりました。「モエンウッド」と名付けられたこの耐火集成材は、北海道産のカラマツのみを原料としています。
これらはほんの一例にすぎません。日本国内では、構想段階から完成に至るマスティンバー・プロジェクトの数がここ数年着実に増加しており、その勢いが衰える兆しは見られません。プレファブリケーション技術や構造工学の進歩に伴い、マスティンバーは、より幅広い種類・高さの建物においても現実的な選択肢となりつつあります。こうした技術面での進展に加え、デベロッパーや都市計画を所管する行政機関の間でもマスティンバーへの理解が広がっていることから、マスティンバーが持つ環境面および持続可能性の観点での意義は、今後さらに高まっていくと考えられます。
変化を先導する
世界的な都市拡大というニーズに応えていく中で、事業用不動産デベロッパーには、建築環境に意義ある変化をもたらす機会があります。開発プロジェクトにおいてマスティンバーの採用を広げていくことは、その有力な手段のひとつです。気候変動と人口密度の高まりという課題が強まるいま、マスティンバーはひときわ適した建材として際立っています。その活用は、商業用建物のエンボディドカーボン(資材の採取・製造から建設段階にかけて排出される二酸化炭素)を削減し、テナントのウェルビーイングを高めると同時に、デベロッパーや投資家のリターンを犠牲にすることもありません。